フランシス・ハ

 ”好きな映画がロードショー公開された月日に合わせて鑑賞することで当時の季節感を追体験してみたい”シリーズ!
 というわけで、今夜のアルック座は、「フランシス・ハ」。
 5年前2012年の本日9月1日に公開されました。
 
 本作のタイトルを見て、「店主のキーボード操作ミス?」と思ってしまう人も多いと思います。
 かく言う店主自身も、雑誌のレビューで最初に目にした時はミスプリントだと早合点してしまいました。
 原題はずばり"Frances Ha"ですから、英語圏の人たちにとっても、へんちくりんなタイトルに違いはありません。

 
ニューヨークに暮らすフランシスは、プロのダンサーを目指している。彼女と同居していた親友のソフィーは、パッチとの婚約を機に、フランシスを置いて引っ越して行く。残されたフランシスは、故郷のサクラメントで両親と過ごすクリスマス、パリへの短期旅行を経て、ニューヨークに戻ってくる。自分の人生と向き合った彼女は、振付師として、人生の新たな一歩を踏み出す。


 去年ボウイの訃報を聞いたとき、彼の"Modern Love"がドはまりしているこの映画ことが思い起こされました。
 日本人的に直訳すると、「現代的な愛」。
 言わずと知れた、83年に発売されたボウイいわく「ホットケーキみたいに売れに売れた」アルバム"Let's Dance"からのシングルナンバーであります。
 ここで、ハタと考えました。 
 確かにこの曲が流れるなか、フランシスがNYの街を激走するシーンはこの上なく小気味よい。
 ただ、インディペンデント映画界のミューズ、グレタ・ガーウィグ主演・兼脚本の本作であるならば、ノリのよさだけでもってヒットソングを使ったりはしないだろう…。
 ネット検索してみたところ、はたして様々に同曲の訳詞に挑んでいる方々がいらっしゃる。
 一番しっくりきたものを店主なりに意訳してみると、こんな感じでしょうか。


新聞配達の少年を呼び止める
そんな事をしても物事は変わりはしない
風に吹かれて立ちつくすわたし
でも決してバイバイって手を振ったりしない

やってやる、わたしはやってやる

生きてる証しなんかない
人を魅了する力ならあるけど
雨に打たれて横たわるわたし
でも決してバイバイって手を振ったりしない

やってやる、わたしはやってやる

もうモダンラブに入れ込んだりしない

モダンラヴ、ときには寄り添い歩き 
モダンラブ、ときには目の前を通り過ぎていく
モダンラブ、いつも通りに教会へと連れてゆく

いつも通りに教会へ、わたしを怖れさせて
いつも通りに教会へ、わたしを高揚させて
いつも通りに教会へ、神と人との契約を押し付ける

神と人、懺悔もいらない
神と人、信仰もいらない
神と人、モダンラヴなんか信じちゃいけない


 
 驚きです。
 ボウイは、ヒット請負人ナイル・ロジャースがお膳立てした売れ線の音に、彼らしくこんな難解なことばをのせていたのであります。
 少なくとも、タイトルから直感しがちな軽薄なポップ・チューンではないのは明らか。
 では、「モダンラブ」とは何でしょう。
 どうやら、現代社会における信仰に代表されるような、盲目的規範全般を指していようであります。

 モダンダンサー志望のフランシス。
 それが叶わぬ夢になりそうなのは、彼女のぶっきっちょさ加減からしたら誰が見ても明らか。
 歩き方ひとつとっても、「ノシノシ歩き」と揶揄される始末。
 前向きというよりは、前のめりで闇雲な行動パターンがお決まり。
 でも、ぎりぎりのところで「自分」を見失わないのがこの愛すべき主人公、フランシスの大いなる強味であります。

 奇妙なタイトルの種明かしはラストシーンにしっかり用意されているのですが、同時に彼女の未来を予見させる仕掛けにもなっております。
 エンドロールで再び流れる"Modern Love"。
 訳詞を踏まえてみると、世の中にはびこる既成概念や体制への追従姿勢を否定的に歌っているとわかるこの曲がテーマに選ばれた理由も、ここにきて合点がいくと思うのですが。
 
 いつものように夜7時からスタート。
 お楽しみに。

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