人気ブログランキング | 話題のタグを見る

店主、「巨匠たちの英国水彩画展」を観る。

 うちのカフェにある阪神タイガース?を連想させるカラーリングの大きなリトグラフ。
 これ実は、ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダー、ハッピー・マンデーズらを輩出した、伝説のインディペンデント・レーベル、ファクトリー・レコードが創成期の1978年、契約アーティストのために開催したライヴ・イベント「ファクトリー・クラブ」の宣伝ポスター。
 なんでそんなもんを、カフェのオープン当初から飾ってあるかというと、アーティストの音造りの自由を保障し、アートワークにも執拗にこだわり、自分たちが感じるものを思う存分表現したファクトリー・レコードの精神性に憧れた店主の「こんなふうにかっこうつけて生きてみたい」を密かに表明したかったからでありました。
店主、「巨匠たちの英国水彩画展」を観る。_a0187509_20161649.jpg

*こちらは、ファクトリー・レコードのドキュメント映画「シャドウプレーヤー」のDVDパッケージですが、イメージこんな感じ

 さて、本題はそんな能書きとはまるっきり関係なく、ファクトリー・レコード設立の地、英国マンチェスターにある水彩画と素描のコレクションで有名なウィットワース美術館の所蔵作品で企画されたBunkamuraの展覧会の話。
 油彩画の下絵的な位置付けでしかなかった水彩画が、英国において独立した芸術分野として全盛期を迎えたのが、18世紀後半から19世紀前半。ウイットワースの希少性は、この時期活躍したイギリス風景画の巨匠にして、印象派絵画の先駆け、ターナー(1775年 - 1851年)の水彩画家としての活動期間全般を所蔵してること。今展覧会の目玉も、必然的にこのターナーであります。

 彼にとって、自然界のめまぐるしく変化するさまを捉えるには、水さえあれば即描ける水彩の手軽さがまことに好都合。新しい技法を試しつつスケッチ旅行を重ねては、未発達分野だった水彩画の進化に注力したのだとか。顔料を塗り重ねた層を引っかいて紙の表面自体をハイライトとするため、人さし指の爪をわざと伸ばしていたという逸話も残っています。
 ターナーがおもしろいのは、すでにアカデミーの重鎮であった50歳を過ぎてから、あのお馴染みのその場の空気感を感じたままキャンバスに綴る作風に世界中のどの画家より早くたどり着いたこと。今展覧会を観ると、ターナーをこういった境地に導いていったのは、水彩における実験的試行錯誤に他ならないと思われますし、油彩の評価ももちろん絶大なターナーではありますが、彼の核は水彩にありといわれるのも頷けるものがありました。

 水彩の変色、退色しやすい性質のため、なかなか叶わなかったウイットワースのコレクションの世界巡回が施設拡張計画に伴って実現し、水彩画家としてのターナーをまとめて愛でられた今回はとってもラッキー。来年の東京都美術館「ターナー大回顧展」の予告編的捉え方もできたかな。

 最後に、当時一流画家にして有名美術評論家であったジョン・ラスキンのターナーを評する言葉を。
 「雲の真実を描いたのはターナーただひとり」
 ぐっときます。

店主、「巨匠たちの英国水彩画展」を観る。_a0187509_17275697.jpg

 J.M.W.ターナー「濡れた浜辺に沈む夕日」
 1845年 鉛筆、水彩・紙
 
 
by arkku | 2012-12-04 21:24 | 雑記